第4章 ~後日談~
家康も厄介に巻き込まれるのは勘弁とばかりの表情を隠さず、ただ一人三成だけがきょとんとしたまましばし黙り、すぐに晴れやかな笑みを浮かべて……。
「何やら察しが悪く申し訳ありませんが、皆さま夜長様を大切にされてらっしゃるのがよく分かりました。私も見習ってもう少し気遣いが出来るよう精進いたします」
とにこやかに信長に言った。
流石の信長も三成の邪気の欠片も無い笑みには凄む気にはなれず、「精々勝手に精進しろ」と投げやりに言うのだった。
「でもまぁ、信長様でも嫉妬はするという意外な面が見れたのは貴重ですよ」
政宗が懲りずに言うと、信長は笑みを深める。
「政宗、確かに俺も意外であったが「嫉妬」とはやや違うぞ」
「はい?」
信長の凶悪な笑みに鋭さが増す。
「俺の女にちょっかいをかけるのは「戯れ」ではなく「謀反」だと得心した。下剋上に挑むのは貴様の勝手だが、とくと腹を決めておくのだな。いつでも受けて立ってやるぞ」
信長の言葉に秀吉が政宗を睨みつける。
「軽口が過ぎるぞ。お前は少しは懲りろ。遅刻も解せんが夜長に不要なちょっかいをかけ信長様を煩わせるな。内輪を乱してどうする」
「小言は結構だ。命賭けてまで遊んだりはしねぇよ。下剋上云々以前に夜長を見れば分かんだろ。信長様以外は男の数に入れてねぇよ」
政宗が降参、と言うように軽く手を上げると信長も小さく笑う。
「そうですね。夜長様は御館様を常に気に掛けてらっしゃいます」
三成は相変わらず呑気に微笑んで言う。
「誰にでもお優しいのが夜長様の美徳ですね。今朝も絽を仕立ててくださいました」
三成の言葉に広間が一瞬静まり、信長も反射的に近頃ずっと目にしていた浅黄色の絽を思い浮かべる。
「私があまりに身の回りに構わないので「たまにはこういう色も良いのではないか」と夜着に仕立てて下さったのですが、大変綺麗な仕上がりでした。返礼に何を差し上げれば良いか悩みますが、私もきちんとしなければなりませんね」
悪意など欠片も無い、澄み切った青空の様な微笑みに家臣全員が内心ため息をつく。
何故こうも空気が読めないのかと。
信長は諦めたように「三成、貴様の無防備っぷりは夜長に通じる物があるが、秀吉の首が大切であるならもう少し俺の言葉の裏を組む事だな」と言い、秀吉を蒼くさせたのだった。
