• テキストサイズ

【イケメン戦国】リクエストアンサー作品(仮)

第1章 ~移ろいやすく、移ろいがたく~


<二>
朝、内密に調査していたある大名の動向報告を天主で終えた光秀が、ふと思い出したように裁縫箱の中を整理する夜長に視線を移した。
夜長は信長と天主にいる時はいつも手元に灯りを取りやすい南側の角で手仕事をするか、小さな文机で型紙を描いたりしている。
家臣が仕事の用事で訪れる際はさりげなく衝立の向こうへ行き、話を聴かないようにするのだ。
だが、信長が「構わん」と言えばそのまま針仕事を続ける。
信長も夜長が針仕事をしている際の没頭ぶりを理解しているのだ。
何より言葉にはしないが夜長が夢中になっている作業を中断させたくないのだという気遣いが夜長以外の家臣には分かっている。
本人だけが気付いていない気遣いだが、信長が言葉にしない以上、誰もそのことには触れない。
今朝も半分以上仕上がっている浅黄色の絽を縫っているが、その目は集中して濡れ、呼吸をしていないかのように静かだ。
信長も夜長の没入している際のこの表情が気に入っている。

光秀は立ち上がり様に声を掛けた。
「忘れていた。夜長」
呼ばれてから数秒してから声が頭に入ったのか、不自然に遅れてハッと顔を上げる。
「はい、何ですか?」
光秀を見上げる夜長は不意を突かれて無防備だ。
光秀が個人的に用事を言うのは珍しいからだが、それにしても雰囲気がまるい事に夜長は首を傾げる。
いつもの揶揄うような意地悪な笑みでもなく、妖しい艶っぽさでもない。
ただただ穏やかな微笑みに何やら不思議な心地がしたのだ。
光秀は懐から小さな掌に乗る薄い包みを取り出して夜長に「お前にだ」と差し出した。
あまりに薄いので折り畳んだ文にも見え、一瞬誰かからの伝言かとも思ったが、違うらしい。
縫物を膝に置き「ありがとうございます」と言いそっと受け取ると、千鳥模様の薄紙に包まれた軽い物だった。
「何やら公家御用達の工芸品とかで作る数も少ないらしいが、品は希少価値に見合うと噂だ」
夜長は中身の見当もつかず、そっと包みを開く。
信長も光秀が個人的にわざわざ夜長に親しくするのが珍しく、脇息に凭れながら事の成り行きを眺めている。
/ 27ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp