第1章 ~移ろいやすく、移ろいがたく~
「視察先の特産らしい。珍しい反物だと政宗が情報を仕入れたのでな。見繕わせた。見てみろ」
夜長の肩を行李の方へ軽く押し、自分は手早く旅装から楽な着物に着替え始めた。
行李の蓋を持ち上げた夜長は鮮やかな茜色の反物に思わず「綺麗……」とため息が出る。
手に取るとそれは肌にすんなりと馴染む手触りの良い生地で、光沢も申し分ない。
しかも持ち上げて織を観察すると、生地が角度によって違った光沢を放つのが分かる。
複雑な糸の入れ方で見た事の無い種類の織だった。
「初めてです、機織りひとつでこうまで違うのですね」
じっくりと撫でて生地の質を確かめるが、何度撫でても飽きない触り心地だ。
色も鮮やかだが品があり、挿し色や小物に良いかもしれないなどと次々に考えが巡る。
「気に入ったか?」
いつの間にか背後に座っていた信長が、後ろから腰に腕を回して肩口に顎を乗せた。
傍で聴く声と腰に回された腕に思わず心臓が跳ねるが、首を捻って「はい」と素直に笑顔を向ける。
「ですが、素敵な反物にはしゃいでいる上にこんなにくっついては驚いてしまいますよ」
夜長の僅かに困ったような笑い声に信長は「この位で驚くな」と片方の腕を持ち上げて夜長の顎を掴み、口づける。
何度かやわく触れるだけの口づけをし、唇を軽く歯んでやる頃にはすっかり夜長の身体は信長の胸に凭れかかっていた。
「口づけだけでこうも愛らしく目を濡らすな。先が持たんぞ」
言葉は意地悪だが、眼差しも声も甘い。
その甘さに夜長は更に目を濡らすのだった。