第3章 ~どいつもこいつも~
<三>
信長は多少の自嘲を覚えつつ夜長をそっと抱きしめる。
「信長様?」
問いかける夜長を抱いたまま目を伏せる。
「俺もどうやら人の子らしい」
静かに言うと、夜長が大袈裟に振り仰ぐ。
何やら怒っているような顔で見上げてくる目はやはり透明で綺麗だ。
思い通りにならないが、それが返って愉快に思える。
愛おしい女の、愛おしい眼差し。
「当然じゃないですか。信長様にはちゃんと心があり、お考えがあります。人間らしさの塊です」
怒った声でムキになって言う夜長に信長の身体が緩む。
この女には乱されてばかりだ。
乱すつもりは欠片もないくせに、簡単に乱す。
煩く言うが、いつも怒るのは自分の事ではない。
他人の為にばかり煩く言い、あれこれと気に病み、奔走する。
非生産的で非効率的にしか見えなかった事が、今ではどうしようもなく可愛くてならない。
艶やかな髪を撫でて遣り、額に口づける。
「そうでないかのように言われる事が多く、自分でも人らしさなど考えもしなくなっていたが。貴様の甘っちょろく無防備な在り様に影響されたのかもしれんな」
冗談めかす声で言うが、本心だ。
「どういう意味ですか?」
「……らしくないと思ったが、よくよく思えばらしいのかもしれんな」
独り言のように言う信長に夜長が小さく首を傾げる。
「信長様?」
怪訝な声で呼ぶと、深く息を吐きながら信長が小さく笑う。
「俺もそこらの男と変わらんようだ。お前に関してはな」
「……?」
大きな目で見上げている夜長の頬に手を当てる。
「これが嫉妬とやら言う感情なのかもしれん」
「嫉妬、ですか?」
信じられない、というように顔を顰めるが信長自身にも新鮮な驚きだった。