第3章 ~どいつもこいつも~
「落ち着け秀吉。今朝の遅刻に関する説教も聞いて遣るが、説教の内容は分かっているな?」
信長の低い声に秀吉は「はっ!ですが……御館様に説教など……」と口ごもる。
「であれば、三成に事の仔細を教えて遣れ。子供でもあるまいし、こんな事で騒ぐな」
投げやりに言う信長に秀吉は「はい!」と言いつつ、三成に分からせる役割は御免こうむりたいと内心頭を抱える。
「ですが信長様、「こんな事」で遅刻など、尚更らしくないじゃないですか。やはり色恋には道理も引っ込みましたか?」
愉快そうに問う政宗に信長は溜め息を吐いた。
「貴様の馬鹿馬鹿しい言葉遊びにこれ以上付き合えるか。色談義がしたければ酒の席で好きなだけしろ。俺が酌をしてやる」
「酒」と「俺が酌を」という言葉に政宗も反射的に表情を硬くし、小さく咳払いをした。
「いえいえ。領地境の大名に不穏な動きがある件について情報が入りましたので、早々に書状をご一読下さい」
と畏まった。
「お前も分かりやすいな。色談義の相手が欲しければそれこそ秀吉を誘え。女泣かせという意味では安土一だろう?」
妖しく笑う光秀に政宗は「話を脱線させるな!」と取り繕い、秀吉も「人聞きが悪いぞ!」と抗議する。
「どうでも良いですよ。さっさと報告を済ませて情報共有して解散しましょう」
面倒臭そうに言う家康に秀吉が再び小言を言おうとするが、三成が「さすが家康様ですね。段取りが良く効率的な場収め、お見事です」と感心し、一気に脱力する。
家康もこれ以上秀吉の小言が渋滞するのも面倒だと、「お前の場を読まない台詞もお見事だよ」と嫌味を言うにとどめた。
しかし三成は「恐縮です」と微笑むばかりで、広間の全員が次の発言に意気込みを失った。