第3章 ~どいつもこいつも~
<一>
軍議に遅れて現れた信長に一同が静まり返る。
「御館様、お身体にご不調でも?」
秀吉が恐る恐る尋ねるが、信長はやや気だるい表情で「ない」と短く答える。
「悪かったな、待たせて」
一度深呼吸をして言うと、「珍しいですね。時間厳守の信長様が遅刻とは」と政宗がにやりと笑う。
「そうだな。貴様はしょっちゅうなだけあって秀吉の小言にも馴れたか?」
軽口を言いつつ、内心「女にかまけて軍議を遅らせるとはな」と己にため息を吐く。
「秀吉の小言に一番馴れてるのは三成だろう?……いや、三成のは小言ではなく小世話だな。光秀か?一番秀吉に説教くらってるのは」
愉快そうな笑みを光秀に向けるが、光秀は少しの動揺も見せず普段と変わらない微笑を浮かべている。
「秀吉の小言などイチイチ聞いていられるか。もはや小鳥のさえずりと変わらんな。心地良く聞き流すだけだ」
光秀の言葉に秀吉が「お前らなぁ」と怒りの前兆を見せた。
「そもそも政宗の遅刻癖も問題だが、光秀は平気ですっぽかすだろうが!論外にも程がある上に「心地良く聞き流す」な!!」
秀吉の説教に光秀は「今日も小鳥が元気にさえずるものだ。安心したぞ」と艶やかに笑う。
「政宗さんも光秀さんも興に乗り過ぎでしょ。さっさと始めてさっさと終わらせたいんですけど」
家康が不機嫌に言う。
「家康、大切な軍議を「さっさと」などと言うな」
こちらにも小言が入る。
「三成、書状を御館様に」
秀吉の指示で三成が文箱を信長の前に置く。
「……」
文箱に手を伸ばそうとして、傍から下がらずに見入っている三成に信長が怪訝な顔で「なんだ?」と問う。
「……いえ、秀吉様も仰いましたが、やはりご不調があるのかと。普段よりお疲れのご様子なので」
気遣わしげに表情を曇らせる三成に一早く察した秀吉が「三成、いいから下がれ」と声を掛ける。
「ですが……」
「いいから!」
首を傾げて下がる三成に、政宗はたまらず声を立てて笑い、光秀も顔を伏せている。
家康は面倒臭そうにため息を吐き、秀吉は本題に入ろうと狼狽している。