第2章 ~天下人とて人なれば~
<三>
翌朝、心地の良い温もりの中で目を覚ますと先に目覚めていた信長が額に口づけを落とした。
いつになく甘い。
甘やかすのもねだらせるのも上手い信長だが、執務に忙しい朝からこうも傍にいて甘やかすのはやはり不自然だと夜長は唇を重ねながらも思ってしまう。
「おい」
寝起きの掠れた、色香の漂う声で言われふと目を開ける。
「何を考えている?」
「……え、いえ……」
とっさに何も思い浮かばず曖昧な言葉しか出てこない。
「俺といる時に他の事など考えるな。俺の事だけを考えていろ」
再び昨夜の不機嫌な声になり、今度は責めるような激しい口づけを受けた。
後ろ首を押さえつけられ、散々に口づけられる。
もう片方の手が夜着の合わせを乱して素肌を撫で、夜長もさすがに焦ってしまう。
朝から信長が戯れ以上の事を求めてくることは酷く珍しい。
なだめるように信長の背を押さえるが、構わず唇が顎、首筋と下りてゆき、鎖骨を軽く噛んで胸の膨らみを愛でる。
ここまですればもう何を言っても中断は無いだろうと思い、疑問を抱きながらも身も心も委ねてしまう。
邪魔な物を取る様に夜着の帯を解き、早々に夜着を滑らせるように肌から落とす。
明け方近くまで身体を繋げていたというのに、時間を置かずに求められるのは身体が疲弊してしまう。
けれど、あっけなく甘い熱に落とされる。
知り尽くした指が夜長の弱い場所を的確に撫で、付けたばかりの鬱血痕を唇でなぞってゆく。
信長は組み敷いた夜長が身を捩るのを、自身の身体で抑えつけて「寄越せ」と耳に囁いた。
艶のある低い声が、一言で鼓膜を溶かす。
やや硬い髪が皮膚に触れるのさえ心地良く、もう体力など残っていないのにと思いながらもされるがままになる。
そんな事は承知だとばかりに「何も考えずに俺の腕の中にいろ。俺が勝手に愛でるだけだ」と甘く言われれば、すっかり身体の力が抜けてしまう。
残るのは触れられる場所から感じる快楽だけだ。
夜長が涙で霞む目を薄く開けて見上げると信長の満足そうな溺愛の目がある。
「蕩け切った顔だな。まだ序盤だというのに、可愛い奴だ」
笑みの滲む声で言い、数刻前までドロドロに濡らし、ぬめらせた蜜壺にそっと触れる。
「夜着など着る必要はなかったな。……夜の名残がまだ内側で誘っている」
「待っ……!」
