第2章 ~天下人とて人なれば~
「……だがな、頭で分かっていても理性が利かぬ事もある。貴様の指先だろうが爪の先だろうが、髪の一本まで俺の物だと自覚しろ」
普段から戯れに言うのとは違った静かな口ぶりにやはり違和感を感じるが、今尋ねても納得する答えを返してくれるとも思えず、そっと信長の胸に身体を預けて、少し伸びあがって頬に口づけた。
「お帰りなさいませ」
夜長がまだ困惑を残したまま、頬を染めて言うと信長がやっとにやりと唇の端を吊り上げて「ああ。戻った」と、普段と変わらない余裕ある声で言い、抱き締め直した。
夜長は信長に言われるまま、もう一度薬と包帯を替えた。
信長が自ら薬を塗り直し新しい包帯を巻いたが、その手つきに温もりを感じられてくすぐったい幸福感に満たされる。
そのまま信長の腕の中に閉じ込められ、信長の体温に心地良くなり深く眠りに落ちた。