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僕と彼女の声帯心理戦争

第6章 【第1章】嵐の前の静けさ Day6


「ーー羽京君。私はね、別に人殺し自体は悪い事だと思わない」
びくり、と羽京の肩が震える。視線は自分の足元を見据えたままだ。

「だって、死んだ方がいい人間だって居るでしょ?
ーー例えば、人間既に何人も殺してて、これからも殺すつもりの人間。そんな危ない人、私なら許せないね」
淡々と言葉を紡ぐ。

「あとそうだな…人殺しとか罪を犯したのに、のうのうと生きてる犯罪者。それを野放しにしておく社会。そういうの、全部許せない。
……もちろん、人の命は大事だし、罪を犯した事への反省も大事だよ?でもね、反省なんかで死んだ人の命は帰っては来ない。反省なんかしてもその犯罪者の罪も消えない。だったら罰した方が社会の為にもなるし、まだマシだよ。」

「…………」
しばらく無言の羽京だったが、震えは止まった。
やっとの思い、というように口を開く。

「君の言う『犯罪者』の中に、君自身も含まれてるのかな」
なかなか鋭い質問だ。羽京君は元々洞察力が鋭い。頭も回る。だからこその手痛さがあった。

「……さあ、どうだろ」フ、と笑って葵が言う。

「誤魔化さないで」羽京の瞳が自分を映す。
その瞳の中を覗き込む様に、葵は彼に視線を合わせた。
ーーその中に映るのは、如何にも悪い企みをする、悪女の自分。そうだ、この姿だ。これが、××君が死んでもなお生きて、罰を受けなかった私への報い。こうあるべき姿。

「……安心して。別に罪の無い人を無闇矢鱈に傷付ける様な真似もしない。罪を犯そうと企んでる危険な思想犯だからって、傷付けもしない」
「……僕は、同意出来ないな」

羽京が静かに、そう断言する。何故そこまでするのか、という怒りに満ちた瞳だった。

「ーー君がそこまで自分を嫌うなら、僕だって考えがある」
そう言い切ると、羽京がふいと背を向けた。

「…………」
羽京が落ち着くのを待って、葵が声をかけた。いつも通りの、ふんわりとした声で。
何事も無かったかのように。

「……帰ろう、羽京君。そろそろ、ご飯の時間だよ」
その言葉に、黄色い帽子を深く被り、表情を隠した羽京がこちらを向いた。

(…………ごめんね、いつも嘘吐きで。優しい君の傍に居て。君を、傷付けてーー
私は、君の傍に居るべき人間じゃない)
そう心中で詫びる。届かない声を残して、その場を去った。
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