第6章 【第1章】嵐の前の静けさ Day6
そう決意した頃には、行きますかね~…と死地に赴くかの様などんよりした顔で葵が起き上がった。
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「葵クン、君ですか」
氷月の表情の無い声が葵に向けられる。
居場所を探すこと約1時間ーー目的の人物である、氷月に出くわす事に成功した。
「……久しぶり、氷月」
私は敢えて『君』を付けなかった。
だってこれからやるのは、喧嘩を売るようなものであり、同時に盟約を結ぶ為だ。昔のように、砕けた口調の方がいいだろう。
「君が起きた時に会いましたが」
「ああ、あの尋問の時ね。あんなの、会ったうちに入らないよ。氷月も居たけど、司君しか喋ってないし。私とは直接話してない。だからマトモに話すのは『久しぶり』……でしょ?
本家の『落ちこぼれ』ーー氷月君」
ピクリ。氷月の肩が僅かに動いた。
糸の様に細い目から、僅かに深い紺の瞳が見えた。自分を射る様に視線が向けられる。
「昔の事です」
「そうかもね。まあでも聞きなよ、氷月」
私はキッ、と随分背が高くなった幼馴染ーーというのも胸糞悪いがーー氷月を見詰めた。
「交渉だ」
「……話だけ、聞きましょう」
そう言うと、スタスタと氷月が歩いて行く。
辿り着いたのは、ゴオオオオと勢いよく流れる滝。
その滝を中心として、周囲に岩の道が作られている。この辺りは一方通行で、この先は行き止まり。監視役の羽京君は必然的に、詰められる距離が制限される。しかもこの轟音だ。何を話しているか聴くのも一苦労するだろう。
「そんなに警戒しなくても、対策ぐらい打ってるのに」
肩を竦めた。
「君ならそうでしょうね」
そう言うと氷月はス、と道の最先端……少しでも進めば滝に落ちるか、という場所を指さす。
ああ、やっぱりね。用心深い氷月らしい。
この先はうっかり足でも踏み外せば、即滝に落下する。仮にここで落ちても、私の「うっかり」で済むだろう。これも万が一の事態を考えてだ。
そこまで見据えた上で、私は何も知らない顔でーー
敢えてこれでもか、と滝に近い落下するギリギリの地点を狙い、正座で背をピン、と昔道場でした様に座り込んだ。満面の笑みで。
《殺れるもんなら、やってみろ》
ある意味では挑発的な態度。
氷月が少し沈黙し、はあとため息をつく。
「…本当に、君はちゃんとしていますね」
「そりゃどうも。だって私はーー」