第6章 【第1章】嵐の前の静けさ Day6
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「行きたくないよ~~~」
そう自分の膝で駄々を捏ねているのは、さっき上井陽を完全にその美貌と会話で籠絡した葵。
疲れたーー寝るーー!!と急に道端に転がってしまったので、慌てて誰にも見られない様な木々に隠れた場所でひっそり過ごしていた。地べたに頭を乗せて眠ろうとするので、仕方なく膝を貸している状態になっている。
どうしてこうなった??と自分でも思うが、もう監視役どころか、この子のお守りみたいなものになっているので割り切った。
「そんなに行きたくないの?氷月の所」
「名前も聞きたくないレベル……」そう言いながら顔を覆いながらうわーんと叫ぶ。
「……まさかとは思うけど、尋問の時に大袈裟に驚いてたのは……」
「氷月が居たからですよー。別に霊長類最強マンの司君とか、縄で後ろ手を縛られたとか、尋問とかその程度では驚きませんー」
「普通は後者の方が驚くけど」
それくらいムリなんですーと足をじたばたする。
こらこら、そういうの止めようか?そう言い聞かせれば、とりあえず足バタバタは止んだ。
子供なのか、それとも杠達に見せた様に、思いやり深い大人なのか。どうにも掴みどころの無い人間である。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
「喉潰れない?それ」
「いっそ潰したい……けど今後の『駒』には絶対必要不可欠なんですよ~」
駒。不穏なワードだ。
「まさか、氷月を手中に収めるつもりかな?」
「手中、は難しいですね。私も向こうもお互い嫌いなので~」
「じゃあ…同盟?」
「そんな所ですかね~まあ、心配しないで下さい」
心配、って…。内心で羽京は呟く。
氷月は『ちゃんとしている』を好む人間であり、彼に本当に付き従う人間は帝国内では紅葉ほむらのみ。
ただ、それもまたあくまで『自分の手足』『部下』としての一定のラインまでの、限られた信頼しか寄せてない様に見えた。
彼は、他人の事を恐らく全く信用しないのだ。
(……あれ)
他人を信用しない。
一人の同じような人物が浮かんだ。その人物は自分の真下に居る。
ーー西宮葵。
彼女もまた、他人を信用していない。幼少期から氷月と交流があったのだ。もしかしたら過去に何かあるのかもしれないがーー
(いや、ここまで嫌がってるなら、立ち入るべきじゃない)