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僕と彼女の声帯心理戦争

第5章 【第1章】嵐の前の静けさ Day3


「……いや、僕も手伝うよ。」
「…そうですか~。でも、誰か来る音が『聴こえた』ら…逃げて下さいね。私はなんとでも言い訳して乗り切れますけど、羽京君は見られたら不味いですから。」

《逃げて下さいね》

……そうか、自分は仮にも司帝国のトップ3だ。
自分の立場を考慮しているのだろう。自分だけなら、逃げられる。
でも、体力や武力で劣る彼女は、幾ら他の人よりは耳が良くても、逃げ切れない。彼女は帝国人の信頼とその演技力があるから言い訳も出来るしーーそれが無理だったとしても、最悪、『自分だけが』何か危害を加えられるなら構わない。

見つかる覚悟で、ここにいるのだ。

「……いや、僕も逃げないよ」本気で宣言した。

「…そうですか~。じゃあこっちの石像から行きませう~」

感情の読めない声で彼女が指さす。
指示通りに石像だった破片に近寄る。

「うわ…」
「これはちょっと…酷いですよね」

珍しく彼女と意見が一致する。
そこには元は二つ並んで居たのだろう、と推察出来るほどの大量の石片の山があった。

うーん、と石片を見ながら葵が呟く。
「これ、多分老夫婦の石像ですね。身なりも良さそうだし。……司君からすれば、『既得権益者』だったんでしょうね」そうポツリと呟く。

二つ並んでるのを壊してるから、二人分のがちょっと混ざって散らばってる。
「これは……集めるのも、くっつけるて元通りにするのも一苦労しますね」そう苦笑いする彼女。

こんな惨い光景を見ても冷静で居られるのも、即座に分析出来るのも驚きだが、何よりそれでも『元通りにする』とハッキリ明言する。それが何より、凄いことだと自分には思えた。

羽京はじゃあ、僕はこっちの人の方を集めるね、と言ってしゃがみこんだ。

ーー自分が助けられなかった、命。

(今度こそは、助けるからね)

そう心の中で囁くと、羽京と葵は日が暮れる直前まで石片集めの作業に勤しんだ。

彼女と居たのに珍しい、ーー穏やかな、沈黙の時間だった。
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