• テキストサイズ

僕と彼女の声帯心理戦争

第14章 【第3章】ファム・ファタール


「あ、の……」

「好きだよ」
それだけ、耳元で囁く。

「……え」
「君の事が、好きだよ」そう言うと壊れ物を扱う様にそっとまた先程よりもギュッと、手や腕の触れる部分は柔らかく力を抜いて抱きしめた。

……身体が驚きで硬直しているのが分かる。彼女の言葉よりも、身体の方がずっと素直だ。

「……あう……あの…う、そ「嘘じゃないよ」
信じられないのだろう。自分が幾ら今まで献身してきたとはいえ、それを悟られないようにイタズラばかりして、騙したりしてきたのだから。

自分が好かれる事は、想定外なのだろう。
「迷惑だった?」そう聞く。「……違う……」ぽそっと返事が返ってくる。


「…私の、何処がいいのか…わかんないし…嫌われる様な事しか…したつもりが……」
「……そんなに嫌われたかった?」「あう…」ビクリ、と震える小さな身体。内心では、嫌われるのが怖いのだろう。

やっぱりね、と心の中で納得した。この子は本当に大事な人には表向き嫌われる様に振る舞いつつ、背後ではその人の為に尽くすのだ。ーーそうすれば、今までの様に、お互い想い合う関係になって、傷付く事もない。

歌を唄う。演技も出来る。策謀力もカリスマ性もあり、料理も裁縫もダンスも出来る。

やれる事があり余る程にあった分、誰も気付かないのだ。
ーー唯一の弱点に。

「ーー返事は、しなくていいから」そう言って抱き締める腕を離して、今度は頬に手を添える。
ーー熱い。燃える様な熱さ。手を添えてこちらを向かせると、ひゃっ、という可愛らしい叫び声と共に、ほんのりの朱に染まった顔を見詰めた。

蒼い、いつかの海を思い出させる瞳の中に、自分が居た。その瞳はうるうると水で溢れている。
……懐かしい、あの頃の海。

視線を合わせて微笑んだ。嘘ではない、本当だ、という意味を込めて。
「…じゃあ、ドレス脱いで貰おうかな」そうイタズラっぽく囁くとビクゥ!!と彼女の身体が反応する。

「…どうしたの?」「え、あ……」はくはく、といつもは流暢に嘘を紡ぐ口元が動く。恥ずかしくなったのだろう。ウェディングドレスの意味も、僕の言葉の意味も理解した上で。
/ 137ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp