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僕と彼女の声帯心理戦争

第14章 【第3章】ファム・ファタール


葵と羽京は二人で寝所へ向かうがーー
どうも、気まずい。何故なら、未だに彼女は花嫁衣装ーーウェディングドレスを着たままだ。
後で着替える~と言ってはいたものの。なんというか、目に悪いというか、心臓に悪いというか。

が、当の本人はこちらの心中をよそに、ドレスのままトコトコと歩いている。しかもライブが大成功だったからか、上機嫌そうだ。

「じゃ、私はこの辺で~!お疲れ様です~羽京君」
「あっ……!」
結局、『綺麗だね』の褒め言葉すらかけられなかった。

少し落ち込みつつ自分の部屋に入って寝る準備をしよう、とする。がーー


横の部屋からんんんーーー!!んんー!!という声がする。何事か……と仕方なく葵の部屋のカーテンの前で声をかける。

「……葵?どうしたの?」
「ひにゃっ!?」猫の威嚇するような声を出す彼女。……やっぱり、この子は猫だなあ…と思いつつ入るよ、といつものように気軽な気持ちで入って行ってーー




……後悔した。彼女は、壁に面したベッドの足側に座り、ドレスを脱ごうと必死で背中の部分に手を伸ばしている。

「……ううう……手が届かないのです~~」
涙目で言う彼女。
「これ脱げないと……この服では……寝る時寒いし…」そう言ってプルプルと震えてみせる。…実際、吐く吐息はまだまだ白い。もう3月とはいえ、石化した3700年前よりも雪は多く、冬は厳しくなっていた。

「え、えーっと…」「うきょーくん、手伝って下さいー多分、背中の部分の糸を何とか外せば後はいけるので~」
うぅ…と恥ずかしそうに頼み込まれる。ほんのり顔を赤くした彼女に影響されて、こちらまで恥ずかしさが増す。

「あの……こういうのは、やっぱり女の子に頼まないと…それか…」
「それか…??」不思議そうに首を傾げる葵。

ーー君が大事に思っている人とか。
そう言いかけたのをやめる。

せっかく綺麗に着飾っているのだ。2曲目の身体のラインがくっきり出るような服も、今回の様な服も……
出来れば大勢の目の前で着るのはやめて欲しい。

「ほら……これ、ウェディングドレスでしょ?」
「はい、コンセプトはそうですね~。杠ちゃんが似合うって言ってくれました~。こんなの初めて着たので勝手分からなくて困っちゃってますが」えへへ、と笑う葵。
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