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僕と彼女の声帯心理戦争

第14章 【第3章】ファム・ファタール


彼らの後ろに葵が一瞬隠れてーー

再び姿を表す。今度も真っ黒いワンピースの様な服だがーースリットが所々入っており、踊れば踊るほどそれらが乱舞する。

先程冒頭で言った狂った台詞や表情、身体のラインを出した服で、最初の清らかで儚げな、庇護欲を唆る美少女の印象が変わる。



ーー正しく、男を魅惑する悪女。

曲としての演出はいいのだがーー
羽京は内心、あまり見ていて気分のいいものでは無かった。まるで性的に彼女を消費するかの様だーー
とすら思えて仕方がない。

その間、Aonnはダンサー達にぐるりと囲まれつつ、決して存在感を消さない。それどころか、周囲より一際キレの良いダンスで周囲を圧倒する。
BGMのないこの世界でダンスを踊る、となるとまた次元が違うがーー彼女のダンスはまるで音が脳の中にまで響く様に、音が体内で爆ぜる様な激しさがある。その度にひらひらとスリットの入った部分が舞う。


ーー永遠にも思える2曲目が終わった。方針する観客の前。真っ黒い服と顔が見えない様に布を被ったダンサー達が、疲れきって倒れ込む様に地面に這い蹲る。

まるでハープが奏でる様な、静かな音がする。

カラン、カラン……
ーー杠の鳴らす、鉱石類を使った簡単な楽器だ。鳴らすと音の違う物どうしを並べて、コンコンと叩くだけだがーー

その穏やかな音色と、主人公の死神を模したAonnの、何処か毒気の抜けた無表情が、曲の変わり目だと言う事を告げた。

ふ…と、Aonnが瞼を開ける。今、初めて世界を見るかの様に。

ーー三番目の曲『そして巡る』

静かに語りかける様にAonnが歌う。
……衣装変化が無いが、その淡々と歌う表情で、前の彼女とは違う存在だと分かる。

ーー私は 弱虫だから
さよならを する勇気すら
持てなくてーー

そう切なげに歌う彼女。もうすぐサビが来るーー

(……このタイミングで衣装が変わるはず)

羽京が確認した限りではそうだった。
するとムクリ、と先程まで葵を中心に円を描き倒れていたダンサー達が起き上がり、今度はゆるやかに回り彼女の元へ集い、再びその姿を隠す。

ーー上から、花びらが舞い落ちる。淡い、桜のような花びらーー

「「「「「!?」」」」」

ダンサー達がひゅっ、とまた左右に分かれて場をはけるとーーそこには、真っ白なドレスに身を包んだ彼女が居た。
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