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僕と彼女の声帯心理戦争

第14章 【第3章】ファム・ファタール


……ワンピースの下からハイネックの黒い服が見えている。これが恐らく、『2番目の衣装』だろう。

「…?どうしました?羽京君」平然とした顔で葵が見詰めてくる。
「あ、いや…何でもないよ。観客席の方に行くね」
当初の手筈通り、移動する。

「へへ…!!頑張ったかいがあった!!」グッとガッツポーズをする杠。それを不思議そうに葵が眺めていたが、観客席・舞台裏・背後の崖上からの裏方係全てOKサインが出ると、つかつかと持ち場へつく。

「ーーありがとう、杠ちゃん。こんな可愛いの作ってくれて」ふわり。いつものスマイルとはまた違う、オーダーメイドの笑みが杠を包み込む。

「い、いえいえ!モデルさんがいいからだよ!」
ふふ、杠ちゃんはよく謙遜するね、と笑いつつ時間が来る。

「行ってくるね。杠ちゃんも、楽しんでもらえると嬉しいな」
そう言って、葵ーーひとりのしがない女性は、幻に包まれた歌姫『Aonn』となった。

1曲目のタイトルは『呪いの春』。
春に出逢った主人公の死神少女と青年の出逢の歌だ。

幕が上がる前にーーAonnが主人公の台詞を呟く。

『私は悪い子、私は悪い女、私はーー貴方の運命の女(ヒト)』

ジャッ、と黒い幕が引いて降ろされる。上からはちらほらと散る淡い青の花びら。

ーーAonnが姿を現した。

貴方の傍は あたたかく
不思議で 淡い 花弁
だけど 永遠は続かない
儚い幻の日々……

この曲は出逢いの悲しみとそれでも一緒に居て欲しい……と懇願する歌詞だ。問題は次の場である。
ーー羽京は次のダンスシーンのある2曲目の予定図を見た。

1曲目は静かにAonnが歌うがーー2曲目は違う。

1曲目の終わりに拍手しようとした観客達の息の根を止めるかの様に、不穏な台詞ーー
主人公の死神の台詞をAonnが吐く。

『貴方が苦しまないようにーー呪って差し上げましょう』

目を見開き、狂った少女の様子を演じるAonnの姿に皆が息を飲む。ーーとても演技には見えない。

(……怖い位の演技力だな)
羽京は心中で呟く。

2番目の曲『I want only…』は、ただひたすらに死神の王として君臨して、世界を壊す道具となった彼女が狂った様に愛を欲しがる歌だ。

サビ手前になると、真っ黒い布を被ったダンサー達が横からぐるりぐるりと回転する様に現れた。
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