第5章 夢、あるいは救難信号
目が覚めたら顕現されたばかりの扱いを受けたこと、本丸の男士の顔ぶれが覚えと異なること、審神者が知らない男に変わっていたこと。
そして、あの演練の日。
“主”の霊力の気配がある前田を見つけたこと――。
「それで今日、審神者にここに連れてきてもらったところだ。……あぁ、俺のところの審神者には、今言ったようなことはまだ説明していない」
ひととおり話し終える。
前田は終始、真剣な面持ちで聞き入っていた。
思いつめた表情は、決壊寸前のギリギリのところで、泣き出しそうになるのをこらえている。
主が見たら真っ青になったのち、誰が何がそうさせた、と真っ赤に怒りに燃えそうだな、なんていうことを思った。
その重い口が、ぽつりぽつりと、言葉を紡ぎだしていく。
「僕もだいたい同じです。ある夜を境に、主君でなくて、あの方が審神者を務める本丸の“前田藤四郎”になっていたのです」
前田の表現に、なるほどそうかと妙に合点がいった。
彼女が消えた、最初はそう思った。
だが、消えたのは彼女と、彼女の刀剣、そして彼女と自分の関係性(練度や顕現の経緯)だとも思える。
そのかわりに現れたのが、あの審神者と、その刀剣たちと、“彼に顕現された鶯丸”。
だとするならば、彼の本丸の“鶯丸”になっていた、と表現するのが、手っ取り早くしっくりくる気がした。
しっくりくると同時に、ますます状況のわけのわからなさに拍車がかかる。
「あの演練のときのように、突然苦しくなって、気を失うことが多々起こるようになりました。あの方によれば、僕に対する霊力の供給が突然途絶えてしまうことが原因のようです」
前田が失神したときの、取り乱した一期一振の姿を思い出す。
何度も大切な弟があんなことになっていたら、愛情深い彼のことだ。正気じゃいられないだろう。
そんな状態の前田が演練に参加したことが疑問だった。
前田のところの審神者は、参加を無理強いするようにはとても見えないが。