第5章 夢、あるいは救難信号
女性は、鶯丸たちに深々と頭を垂れた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。武蔵国五九二号本丸の審神者でございます。本日はご足労いただきありがとうございます」
早速ですが、と女性は続ける。
「すでに結界内ですが、お二人で話していただくために重ねて結界を張りました。右の路地を行きますと内部結界に入ります」
女性は簡潔にそう述べ、右手で方向を指し示した。
彼女たちは同席しないらしい。これも前田の要望だろうか。
白い指先にならって視線を動かすと、細い路地が目に入ってくる。
当然、人影は全くない。
「前田、大丈夫?」
女性は前田に目をやり、ひとつ尋ねた。
その声音からはさきほどの自己紹介と比べて、優しさと気遣いの温度が感じられる。
「……はい」
不安げな声ではあるが、前田はしっかりとこたえた。
強い双眸が鶯丸を見上げる。
「行きましょう」
小さな体が、その一歩を踏み出した。