第5章 夢、あるいは救難信号
「鶯丸!」
呼ばれて、はっと声のほうを向く。
加州が手招きしていた。その顔には、どこか緊張の色が滲んでいた。先方の審神者が到着したのだろうか。
「随分茶のところにいたじゃん。あ、ちょっと歩くから」
加州についていくと、店の出口に審神者がいた。こちらも表情が硬い。
そろって歩き出したが、審神者の歩き方はなんとなくぎこちなかった。
そんなぎこちないまま、万屋のある商店街を歩いていく。
少し歩いたところで、路地裏にまわった。
急に人影がなくなり、街の喧騒が遠のいていく。
路地を出ると、空き地と、それから三人の人影が見えてきた。
40代くらいの女性と、蜂須賀虎徹、それからーー前田藤四郎。
彼は、不安と期待がないまぜな表情で鶯丸をみとめると、おずおずと会釈をしてくる。
「迷わず来れたみたいでよかったわ」
声をかけてきたのは、女性だった。おそらく審神者だろう。
出で立ちは自信に満ちており、呼びかける声は芯のある太さでどことなく威圧感があったが、浮かべる笑みは至極あたたかかった。
緊張が最高潮に達したらしい審神者があわあわと「遅くなって申し訳ありません」と駆け寄っていくが、彼女は笑って首を振った。
「すごい結界術です……全くわかりませんでした」
「あら、本番はこれからよ」
笑みを深める女性に、審神者が驚いたように目を見開く。
この空き地には、結界が張られている。
それは事前に知らされていた。だが、どのタイミングで結界内に入るのか、全く予想できなかった。
通常、結界は霊力の気配を伴うものだが、それが全くなかったのだ。
入ってみて、うっすら結界内に漂う霊力に、ここが結界内だということを認識できた。
結界外では結界の存在すら秘匿したい、そんな術者の執念すら感じる。