第5章 夢、あるいは救難信号
「大丈夫か?」
「はっ、す、すみませんっ! 僕が緊張するなんて変ですよね!?」
「そんなことはない」
約束した”前田と会う日“、審神者は、それはもう目に見えてわかるほど緊張していた。
相手の審神者は復帰したベテランらしい。しかも話の内容は不明。緊張するのも無理はないだろう。
そうこうしていると、万屋に到着した。
事前に打ち合わせたとおり、万屋へは時間をずらして到着することになっている。
あくまでも“偶然”を装いたいらしい。
「まだ時間があるね。主、俺アクセサリー見たい!」
加州は万屋に来るのが久しぶりのようだった。
目を輝かせ、審神者の袖をくいくいと引っ張っている。
審神者はわかりましたよ、と頬をゆるませて引っ張られるままに連れていかれた。
「好きなように見ていてくださいね」
振り返りざまに審神者に言われる。鶯丸が頷いてみせると、さっそく審神者は加州から「ねぇねぇこれかわいくない?」と試着の評価を求められていた。
見覚えのある風景だった。
主と加州は万屋に行くたび、あんなふうに「これかわいくない?」をし合っていた。
ふらふらと店内を歩いていく。
なんとなく辿りついた茶葉コーナーは、相も変わらず品揃え豊富だった。
そういえば、茶葉のコーナーで延々迷いつづけて、主から「いい加減に決めて!」と怒られたこともあった。
主が好きだった種類は、と商品に手を伸ばしかけ、その行き先が定まらないことに気づいた。
主が好きな種類は――
主は甘めが好きだったか、それとも渋めが好きだったか……?