第15章 回転不変:無題のノート
「研究ばかりしていること、審神者を選ばなかったこと、いろんな人がいろんなことをボクに言ってきた。いつまで女一人で研究だけしていて何の意味がある、とかね。
でも、鶯丸は『他人がなんて言うかなんかどうでもいい』なんて言うんだ。
最も古い刀の一振りであって、存在すること自体に価値を見出だされてきたキミが、そんなことを言うのが……羨ましかった」
「ボクにとって大切なことは何か、この命を費やしてまでやりたいことは何か、改めて考えたんだ。人間の寿命は短いからね。
――やっぱりそれは、“研究”で変わらなかった。霊力の神秘にふれること以外は、ボクにとって“どうでもいいこと”だったんだ。
キミはそれに気づかせてくれて、肯定までしてくれたんだよ。キミがそんなつもりじゃなくたってね」
「ボクは鶯丸に来てほしかったんだよ」
主の瞳は、真っ直ぐ鶯丸に向けられていた。なにも飾るところのない、ありのまま心の内を声に乗せたような、そんな言いようだった。
あまりに純粋なそれに、鶯丸はどう返せばいいのかわからなくなる。
心臓の鼓動がやけによく聞こえた。
なぜか、全身を巡る彼女の霊力を確かに感じる。
目の奥まで彼女の視線で照射されているように、ジリジリと脳髄が焦げそうだった。
そんなふうに固まる鶯丸に、主は
「……ボクが助けを求めたら、力になってくれる?」
なんて、尋ねてきた。
聞くまでもない質問に、やっと思考能力が回復してくる。
「もちろん、助けるに決まっている」
「……ありがとう」
ちょうど窓から夕陽が射し込んで、二人の横顔を照らしていた。
そのとき、妙に胸騒ぎを覚えた。
本当に、主は助けを求めてくれるだろうか?
俺に、助けさせてくれるのだろうか――?
冷たくなり始めた秋の風が、ふわりとカーテンを揺らす。
書類がめくられ、そこに『L.O.計画』という文字が並んでいた。