第15章 回転不変:無題のノート
:1年前
最近、役人の訪問が多い。
あと、「ちょっと席を外してくれますか?」と役人に言われ、主から引き離されることが度々ある。なにをか話し込んでいるが、主は詳細を教えてはくれない。
研究補佐として日々業務を行ってきたし、これからもそれは変わらない。そういう自負もあり、少々不満を覚えた。
ある日、思い切ってそれを主にぶつけてみた。
いつものように机に向かって、機械がはきだしたレポートを読んでいる主に声をかけた。
主は苦笑して、
「……ボクの研究を、お金儲けに転用したい人がいるみたいでね」
短く、そう答えた。
これ以上刀剣男士を、人間同士の無駄な争いに巻き込みたくないとも言った。
ここのところ、思い悩む主の顔を見ることが多くなった気がする。
それは鶯丸にとって赫々明々な戦う理由になる。だというのに頼ってくれないことが、どうしようもなくもどかしかった。
それだけではない。
数値や機械をチェックする頻度が上がったような気もする。研究に熱中しているから、というよりかは、なにかを監視する目的のように思えた。
「主、なにか事情があるんだろうが、俺は主の刀だ。あまりほっとかないでくれ」
そう言うと、主は虚をつかれたように目を開いた。それからやわらかく目を細めて、ちょっと困ったように微笑んだ。視線を鶯丸から外し、窓の外へ向ける。
窓の向こうでは、夕明かりが世界を焼いていた。
主は橙色の反射で瞳を染めながら、どこか懐かしむような口ぶりで言葉を紡ぎ始めた。
「キミは前に、自分を狙って鍛刀したのか、って聞いたよね」
「……そうだな」
「実はね、ずっと前からキミのことは知っていたんだ。だから、補佐として刀剣男士が一振りつくことになったとき、真っ先にキミが思い浮かんだ」
話しながら、主は手元の試験管にそっと触れる。