第11章 決戦前夜
>どういうことだ?
>>前田:単純に、僕たちの本丸の号が削除されているそうなんです。審神者様が「サーバー名+本丸の号」で調べても、該当するものが痕跡すら出てこないらしいんです。
>本丸が廃止されたってことか?
>>前田:いいえ、これもまた審神者様が調べてくださいました。政府が発行する書類で、廃止になった本丸が載る“官報”というものがあるんですが、ここにも僕たちの本丸はありませんでした。
前田から送信された文章を二度、三度と読む。返信を打とうとしている内に、前田からさらにメッセージが送られてくる。
>>前田:僕はこう思いました。
僕たちの本丸は、“最初からなかったもの”として扱われている、と。だから、廃止にすらならない。
政府の意図がどうであれ、公式に存在している本丸ではなくなってしまった。
前田がはっきり“政府”と書いたことに驚く。彼は、自分たちを今の状況に追い込んだのは政府であると、そんな確信じみた考えを持っているらしい。歴史修正主義者ではなく、だ。
鶯丸もおおむね同意見だった。自分たちの本丸をデータベースから削除する、一つの本丸を丸ごとなかったことにする、そんな芸当ができる組織はそうそうない。
しかし、歴史修正主義者ではなく、政府の仕業であるとして、いくつも疑問点がある。
まず、目的だ。
貴重な戦力である本丸を消すのはなぜか?
消すとは言っても、鶯丸たちは折られたわけではなく、一見して経験値がリセットされたようになり、いくらか弱くさせられたものだが。
そんな、自陣営を弱体化させることになんのメリットがあるのか、鶯丸には検討もつかなかった。
どうしても“霊力”が必要になることから、審神者の適性がある者はごく一部に限られる。
適性があったとしても、そこから審神者として歴史修正主義者と戦えるレベルになるまで育成するのもまた、かなりのコストがかかるらしい。
「万年人手不足のくせして、人使いが荒いったら」
と、主が愚痴っていたことを思い出す。そんなことを考えていると、前田からのメッセージが続けて送られてくる。