第11章 決戦前夜
しばらくして、審神者が鶯丸のもとに歩いてきた。鶯丸の隣に腰を下ろすが、手にはなにかを持っている。まわりの男士たちは興味津々といった顔で、二人に視線を送ってきていた。
「あちらの前田さんとの連絡用に使ってください」
審神者が差し出したのは、スマホと呼ばれる連絡機器だった。
メタリックグレーの外観は、新品そのものといったでツヤで周りの光を反射している。受け取ると、ひんやりとした手ざわりだった。
スマホが鶯丸の手に収まった途端、傷一つないディスプレイにぼうっと光が点る。画面に現れたのは、なんの変哲もない、灰色の四角形のアイコンだった。
「実は、あれから注文していたんです。それがやっと届きました。共用の一台のつもりだったのですが、事情が事情なので、一時的に鶯丸専用です」
「……それはすまない、ありがとう」
「こんなところからですが、力になれて嬉しいですよ」
審神者はそう言って、顔を綻ばせた。その背後では、男士たちがしげしげとスマホに視線を注ぎ込んでいる。
「あんな小さいのに?」
「びでお通話っていうのもあるらしいですよ」
「すげーな!」
わっと盛り上がる彼らが、早いところこれを使えるようにしよう。
そのためにはまず――
「前田さんのところの審神者さんからいただいたのですが、そのアプリ――えぇと、灰色の四角形を触るとですね、かなり秘匿性の高い通信ができます。文章のみのやりとりではありますが」
審神者の話によると、前田がいる本丸の審神者には、暗号通信技術に長けた友人がおり、このアプリはその者に以前作ってもらったらしい。
メッセージの内容、差出人、宛先などが高度に暗号化され、加えて複数の回線を経由するおかげで、軍事運用に耐えうるレベルの秘匿性が保たれるとのこと。
なにやらよくわからないが、あの結界を作り上げる審神者の言うことなら信用できる気がした。
アプリを起動し、審神者から一通り使い方を教えてもらう。すでに連絡相手には、前田のアイコンがあった。前田のところの審神者とおぼしきアイコンもある。
これで取り急ぎ彼女にも礼を伝えよう。
この二日酔いが少しマシになってから、だが。