第11章 決戦前夜
当初、政府は報道規制を敷いたが、発達した未来のネットワークはこれを見事にかいくぐってみせた。大々的にスクープされたその犠牲者欄には、審神者の“お兄ちゃん”の名前があったという。
こうして彼は、家族が審神者になるために連れていかれたこと、同じ審神者に殺されたことを知る。以来、彼は審神者という職業自体に憎悪を抱くようになった。
この事件については、様々な陰謀論が唱えられた。詳しくはないが、鶯丸も聞いたことがある。
陰謀論の中には「犯人は歴史修正主義者に寝返ってなどいない」というものもあった。
「審神者は“審神者のまま”同胞を殺してまわった。」
というものだ。
だが、それでは都合が悪い政府が、歴史修正主義者に罪を被せようと、強引に加害者を“歴史修正主義者”認定したのだという。
この噂の真偽のほどはわからない。ただ、今や審神者には、公式の発表を疑うに足る材料がありすぎるようだった。
また、大虐殺を引き起こした審神者に本丸はなかったが、刀剣が一振りついていたという。その刀剣の行方も明らかにされていない。
ガルル、と小さなうなり声が聞こえる。なでる手が止まってるぞ、という虎からの叱責であった。おっと、となでなでを再開する。虎はすぐにゴロゴロを喉を鳴らした。
思考を戻す。
ええと、“お兄ちゃん”と同様に彼もある日、孤児院を去ることになったのだ。そして何者かに“研究所”へ連れてこられ、術をかけられた。
その術は、孤児院でのあらゆる記憶を初期化し、『自分は、審神者になるために、政府の施設で訓練してきた孤児である』という記憶を上書きする術だった。
なんのきっかけかはわからないが、審神者は今日、それを思い出したらしい。
彼は、鶯丸が一つのきっかけかもしれないと言う。同じように”記憶を改竄された“と思しき鶯丸の話が、なんらかのトリガーになったのではないか、ということだった。
そう言われると、自分の今の状況と、彼の過去になにか関連があるのではないかとすら思えてくる。