第11章 決戦前夜
「怖い顔してどうしたんだい?」
通りすがりの歌仙が、そう声をかけてきた。
彼は、陶器でできた瓶を持っていた。500mlのペットボトルくらいの大きさだ。翡翠色をした雅な代物からは、なにやら爽やかな香りが漂ってくる。
中身を尋ねれば、
「ハーブのリキュールさ、庭で育てているんだよ。君も一口どうだい?」
また新たな種類の酒の登場に少々慄きつつも、せっかくなのでいただくことにする。少量でいい、と言ったが、おちょこに並々とつがれた。
おちょこにはどれだけついでも少量カウントなのだろうか? 俺が間違っていた……?
いやいや。やはりここの刀剣、酒に関してはなにかバグっている。
さあ飲んで、感想を聞かせてくれ、とばかりに微笑んだまま立ち止まる歌仙の圧に負け、おちょこに口をつけた。
香りのとおり爽やかで、どこか柑橘系を思わせる味が口の中に広がる。喉が焼けるような感覚もなく、液体はそのままするんと流れていった。
同時に、柑橘系の清涼感ある香りが鼻を抜けていく。薬っぽさもあるが、それすら美味しく感じる。不思議だ。
「うまいな」
「口に合ったようでなにより。体にもいいから、また欲しかったら声をかけるんだよ」
満足そうに目を細めると、歌仙は審神者の席に向かった。
歌仙の手元を見て、審神者がパッと目を輝かせる。どうやら好物らしい。