第11章 決戦前夜
宴会が始まっても、みなの謎のハイテンションは収まる気配を見せなかった。むしろ酒が入ったことで、ますます悪化の一途をたどっていた。すでに何人かは完璧に出来上がっているし、ろれつが回っていない、空き瓶を素振りする、などといった奇行を繰り広げる男士が出る始末。
そんな光景を眺めながら、鶯丸はデジャブを覚えていた。
主がいなくなる直前の夜も、こんな浮かれ切った夜だった。
そんな空気にアテられたのか、そうでないのか。鶯丸は酒の合間に“ご褒美”にあずかることとなった。
「えっ……本当にいいんですか?!」
「いいもなにも、それが慣例なんだろう」
恐縮極まる、といった声と表情の審神者。平然と肯定を返してみるが、審神者はあわあわと落ち着かない様子だ。
一応他に主がいる刀剣に、そんな馴れ馴れしい真似をしていいのだろうか……とでも考えているらしい。あとは、他の加州のような男士のように「なでてくれ!!」というアピールをしているわけでもないから、無理してなでさせているのではないかと、疑ってかかっている、とか?
ちなみに、審神者はほとんど素面である。一切顔色を変えないままに(むしろ白い)、さっきからもう何本目なんだ、と目を疑いたくなる量の空き瓶を作りだしている。どちらかと言わずとも気弱で温厚な彼が、まさかこれほどアルコールに強いとは思わなかった。見かけによらず、かなりの酒豪らしい。
戸惑い、恥ずかしさ、照れなどなどの感情が、代わる代わる審神者の顔を入れ替わっていく。そしてあるとき、とうとう決意したらしい。
「で、では……! 」
やたらと緊張した面持ちで、審神者はおずおずと腕をあげる。指先が震えている。指同士をぴったりくっつけ、審神者の手のひらは一枚の板のようになっていた。その手のひらが、ゆっくりと鶯丸の頭上に向かう。
つむじの髪の毛が、どこまでも柔らかい手つきによって、ふわりとつぶれた。ほのかに温かく、くすぐったいような感覚が頭の表面を行き来する。
「ぐっじょぶ、でした……!」
「……なるほど」
どういうリアクションをしたいいものか困り、とりあえずよくわからない言葉を呟いてしまった。
なるほど。
このまま小一時間茶を飲むのも悪くない。主と再会したならば、この制度をぜひ導入してもらおう。
ぎこちなく頭をなでられながら、鶯丸は心の中でそう誓った。