第11章 決戦前夜
「ええい、宴会だ、宴会やるぞ!」
スカッと晴れた青空のような、よく通る声が部屋中に轟いた。
和泉守兼定、そのひとである。
声は勇ましいが、顔は涙と鼻水で子どものようにぐちゃぐちゃであった。なお隣で堀川が同じような顔をしながら彼の顔を拭いている。
「宴会?」
思わず聞き返した。和泉守の鼻を拭きつつ、それはそれは嬉しそうな笑顔をぱぁっと浮かべて堀川が言う。
「そうですよ、主さんの快復祝い!」
「お前も主役の一人なんだからな? ボサッとしてんじゃねぇぞ!」
堀川と二人がかりで畳み掛けられる。
主役? はて? と首を傾げていると、
「今月の誉ランキング1位、お前」
そばでボソッと声がした。棒読みすぎる棒読みだった。
見れば、いつの間に主から引き剥がされたのか、加州だった。泣きすぎて紅が若干落ちているが、赤い唇を尖らせ、いかにも不服といったカオで眉をしかめている。彼は腕組みをして、フンと息を吐いた。
不満げな猫のようだ、などと言ったらそれはそれは怒られるだろう。
かたわらでくすくすとおかしそうに乱が笑う。
「納得いかない、って顔だね」
「……勝てるわけなかったってことじゃん。乱もムカつかないの?」
「そりゃあね~初鍛刀のプライドがサックリいかれたけど――ボクには夜戦があるから」
怖いくらいに透きとおった瞳の水色が、まばたきの一瞬閃く。
得体の知れない恐れを感じさせる光が、乱の瞳に揺らめいていた。