第10章 遠い残響に耳をすませて
誰もいなくなってしまった本丸。
赤に全てが飲み込まれようとしている中に、一人意味もなく生き延び、座り込んでいる自分。
そんな自分に背を向けて歩きだす、“主”。
「……どうして折らなかったんだ」
それは、呪いにも、懇願にも似た言葉。
そして、もう二度と答えを見つけることのできない問い。
「どうせ捨てるなら、最初から……」
溢れ出てくるのは、“主”の笑顔ばかりだった。太陽のように明るくて、時には少し暑苦しいくらいの。
きっとそれをことごとく塗り潰してしまうような、酷く血なまぐさい記憶だってたくさんあった。見捨てられる困惑と、怒りと、どうしようもない悲しみ。存在していることを後悔してしまうような記憶たち。
なのに、否応なしに脳裏に浮かんでくるのは、楽しくてあたたかい日々の笑顔だ。
簡単に憎しみで塗り替えさせてはくれない、残酷なほどに幸せな、記憶。
「どうして俺だけを残したんだ――」
「骨喰!」
強く名前を呼ばれ、はっと我に返る。
視線をあげると、俺をまっすぐに見つめる双眸が泣きそうに歪んでいた。
それで、やっと気づく。