第10章 遠い残響に耳をすませて
左腕がだるくて痛いのがずっと続いている。別に怪我をしているわけではない。見た目は全く問題ない。原因も特に思いつかなかった。
寝つきも悪くなったし、夜中目が覚めるときもある。だいたい汗をびっしょりかいていた。悪い夢でも見た気がするが、幸運なことに覚えていなかった。
とうとう戦闘にも支障を来すようになった。
兄弟や仲間に迷惑をかけるのはもちろん、日課達成にもひびいた。それはすごく恥ずべきことのような気がした。敵を屠れなければ、存在価値がなくなってしまう気がする。誰かがしきりに耳元でそう囁いていた。
とは言うものの、だるさも痛みも和らがない。むしろ増悪の一途を辿った。
冷やしてはどうかと言われ、氷枕を使って左腕を冷やしてみると、少しはマシになった気がする。だが氷枕が温くなると、すぐ痛みが舞い戻ってきた。
だから気づかれないよう夜中に抜け出し、台所で氷枕を交換することもままあった。
「誰か、いるの……?」
そんなある夜、俺は声をかけられた。
いつの間にか、俺は審神者部屋の前に立っていた。
どうやってここまで来たのか、覚えていない。氷枕を持っているわけでもなかった。じゃあどうして俺は、ここに立っているんだろう――
襖がゆっくりと開かれる。暗がりの中から不安そうな顔が覗いた。彼女の姿が、月の光を受けて浮かび上がる。
「骨喰……」
彼女の瞳に捉えられた一瞬、世界から音が消えた。