第10章 遠い残響に耳をすませて
それから先は、思い出したくもない血の記憶だ。
主は豹変した。
重症進軍など当たり前。仲間たちは次々に折れて行った。まるで敵に生け贄として捧げられ、次々に斬られているようだった。
最初は誰もが手入れを乞うたが、最後には誰もが沈黙していた。重たく鈍い諦めが、全ての気力を奪っていった。ただ折れて消えるのを待つ日々だった。
だと言うのに、皆が皆、主を憎みきれないでいた。あたたかい記憶が、鮮やかによみがえるからか。
そんなものいっそ全部消えてしまえと何度も思った。何度も願った。ただ憎ませてほしかった。
自分たちを使い捨てのモノとして扱う、人でなしの審神者。そう思いたかった。
そうでなければ、今の俺たちのこの状況はなんなのだ?
笑い合い、あたたかい時間を共にしたあの審神者は誰なんだ?
何も感じていないような無表情で、最後の慈悲を乞う短刀を見殺しにして折るあの審神者は、一体誰なんだ?