第10章 遠い残響に耳をすませて
朝、誰かが室内で暴れるような破壊音で目が覚めた。
音源は審神者部屋だった。敵襲かと思って急いで向かうと、部屋の中は荒らされたようにぐちゃぐちゃになっていた。
朝陽を受けた、主の落ちくぼんだ目蓋の影が一層暗かったのを覚えている。
「ど、どうし――」
「こんなのもうたくさんだ!!」
言葉を遮られ、怒鳴られた。
怒鳴られたことはあれが初めてだった。快活で明るい主は、怒ることもあったが怒鳴るとか乱暴な真似はしなかった。けれど今、彼は明確な拒絶をぶちまけた。
やはり先の戦で、初期刀を初めとした古株の男士を失ったことが堪えているのだろう。今や、この本丸で最も古参となってしまった自分が主を支えなければ。
そう思ったときだった。
「あ、主っ!?」
突然主は端末で刀解の処理を始めた。
慌てて彼の手を止めると、乱暴に突き飛ばされる。突然のことにわけがわからない。
「ッ――くそっ!」
主がまた怒鳴る。悪態をつき、端末を床に叩きつけた。最低必要戦力のフィルターがかかり、刀解ができなくなったらしかった。
「返せよ! 俺を……返せよっ!!」
主が顔を覆う。指の間から透明な雫が伝い落ちていった。彼の張り裂けそうな慟哭が、場違いなほど爽やかな朝の空気を震わせる。突然のことにどうしていいかわからず、俺は立ち尽くすほかない。
今思えば、こんなフィルターいらなかったのだ。
ここで俺も刀解された方が良かったのだ。