【Bプロ】Wrapped in love【金城剛士】
第1章 1
れよあれよという間に彼女がドアを開けていた。
瞬間。鼻腔を花の香りとヤニの臭いが混じった依存性のある甘い匂いが満たした。
「お邪魔します。」
「はい。」
あのとき確かに不機嫌そうにタバコを消した彼女は、いまは鼻歌を歌い出しそうな程にるんるんと上機嫌だ。
言われた通りに上着をかけ(彼女の分も)、カバンを置き(彼女の分も)、手を洗って案内された場所に驚愕した。
「すげえ…レコーディングルーム……」
「すごいっしょ?」
3面のディスプレイとカスタマイズされたキーボード。それに電子ピアノ、電子ドラム、電気アコースティックギター。譜面が散らばった机の上には、ドラムのスティックと、メトロノーム。それとのみかけのマグカップがあった。
「ここ防音なのよ。だから、歌っていいよ。」
「マジか…」
「気が向いた。あんたの歌、聞きたくなったの。リハしてて。」
「ありがとうございます。」
俺は頭を下げてお礼をした。感謝は歌で返そう。そう考えて電アコを拝借した。さすが、チューニングばっちりだ。
大きく息を吸い込んで、声出しとリハーサルを重ねた。
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どのくらい時間が経っただろうか。
いつの間にかウイスキーのロックを片手に彼女は帰ってきた。湯上りのほかほかとした寝巻き姿で。
初対面の男に見せる姿かよとドキマギしたが、ガキと呼ばれたことを思い出して冷静になれた。眼中に無いってことだ。
「じゃ、聴かせて?」
「はい。」
説明や前置きなんて蛇足だと思った。
いま練習中のデビュー曲、永久パラダイスをバラードアレンジして、電アコで弾き語りした。
「………」
彼女は真剣な目でしっかり耳を傾けてくれた。
そして拍手を送ってくれた。
「すごい!!ちゃんと気持ち乗せて歌えるんだね。それがボーカルにとって一番大切な事だよ。もっとひとりよがりに歌う人なら途中で叩き出してた。」
「ありがとうございます。さん。」
「んじゃ、なんか聞きたいことあったら聞いて。」
彼女はそう言ってグラスを傾けた。カランという涼し気な音がしたあと、にっこりと笑った瞳が見えて、心臓がきゅっとなった。…なんだこれ。