【Bプロ】Wrapped in love【金城剛士】
第1章 1
「さんみたいに…演奏にも心を乗せるためにはどうしたらいいですか。」
「剛士くん…だよね?君は歌で上手に出来てるから、掴むのは早いと思うけど、やっぱり人前に立って歌を歌う練習、勝手に指が動くまで練習、が言わずもがな一番大切な事だよ。これからも継続してね。」
「分かりました。」
「他には?」
「昔、マンハッタンでライブしたことありますか?」
「あるよ。」
「やっぱり…」
今でも鮮明に思い出せる、美しくほろ苦い思い出だ。
「あのときのあなたに、お前の歌はなってないって言われた。覚えてますか?」
「あーーー、もしかして、あのときのオナニーボーイか!」
「くっ…」
何度思い出しても悔しくて腹が立つが、そうなのだ。
あの時も彼女に、ライブハウスで弾き語りを聞いてもらって、お前の演奏はオナニーだ!と辛辣に評価されたのだ。その時からずっと、気持ちを歌に乗せて、聞き手に届けることを意識してやってきたのだ。
「俺の歌を聞け!どうだ上手いだろう!って聞くに耐えない演奏だったのに。よくここまで頑張ったね。」
「ハァ…でもあの時の言葉があったから、俺はここにいます。感謝してます。」
「そう?ならいいけど。」
いつの間にか彼女のグラスは空だ。
「そろそろお暇します。忙しい中ありがとうございました。」
「いいってことよ。タクシー代あるの?」
「寮が1駅なんで歩いて帰ります。」
「そ。じゃあ気をつけてね。」
帰る時もあっさりだった。
そういや連絡先聞くの忘れた。大失態だ。
そう思ってスマホを見るとメッセージが1件入っていた。
『お客さんが一人しかいないのに、スマホを弄られてるのを気づかないなんて、やっぱり半分オナニー入ってたんじゃない?』
「あの女……っ」
俺は深夜の公道で顔を真っ赤にしてスマホを落とした。溜息のあと舌打ちをして拾うが時すでに遅し、画面には立派な亀裂が入っていたのだった。