【Bプロ】Wrapped in love【金城剛士】
第4章 4
(大人気ないな……)
余裕が無いからこんなことをしてしまった。
刺激的で扇情的なキスは簡単に私の心を狂わせた。
(あのまま、したかった。)
ずっと奥にある、女としての欲望が顕現する前に、理性的な大人として、しっかりしまい込んで置かないといけないのだ。
荷造りするなんて嘘。
本当は1人になりたかった。
それだけ。
わたしはソファに寝転がり、静かに目を閉じた。
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次の日、まだ朝日も昇らないうちに電車に乗った。いつの間にかターミナル駅に来て、新幹線の座席に座った。
「夜叉丸さんにJOINしなきゃ。」
もう手に負えなくなったと思った。
剛士くんの将来を潰すわけに行かない。
彼は高校生で、アイドルなのだ。
わたしはいい歳したOL。
《剛士くんお返しします ありがとうございました》
プライベート用の携帯で、それだけ書いて電源を切った。
いまはこの仕事に集中したい。
それだけが願いだった。
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野外フェスはリハ初日から猛暑日だった。
晴れたのはいいけど暑すぎる。
自分の仕事はライブ機材をアーティストに合わせていじることなので、重労働でもある。
「おはざーっす。よろしくおなしゃす!」
次のバンドが入ってきてチューニングとリハが始まる。
その間に楽器に合わせたマイクを置いたりアンプに楽器を繋いで音が出るかチェックするのだ。
「アレ?さん!久々っす!」
「タクヤ。久しぶり。」
新宿のライブハウスで一緒にギグをしたのが懐かしい。
あれは半年ほど前で、まだ冬の寒い時だった気がする。
「お前のとこはインディーズ部門だっけ。ここには音楽関係者が沢山来ているから、デビューまですぐだろうな。」
「ありがたいお言葉っす!」
タクヤは白い歯をにかっと見せて笑った。
「ところで、あのあと剛士と上手くいったんですか?」
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結局リハの時間がきて誤魔化してしまった。
だが今1番聞きたくない名前を聞いてイライラしたのが顔に出たと思う。公私混同なんて最悪だ。大人なんだからしっかりしなきゃ。
タクヤはリハの後ライブの細かい箇所についてバンドメンバーと擦り合わせしながら消えていった。最後に会釈だけして。
(上手くいったってどういう意味?)