第3章 迷宮の十字路
「『弁慶の泣きどころ』や。痛いであれは」
バッグを拾うと和服の女性に渡す。近くに舞妓さんがいるところをみると何処かのお茶屋さんの人なのだろう。服部平次は女性と舞妓さんから何か貰うと、そのままバイクで行ってしまう。手に持ったままになっていた携帯を再び操作し綾警部に電話する。
「“はい、綾小路です。どうしたんや空はん”」
数回のコールで繋がる。
「現場近くであの服部平次をみつけました。もしかしたら今回の事件を追っているかと」
「“あぁたった今私の近くを通ったバイク、大阪府警本部長の息子さんやったか”」
声のトーンが少し下がった。やっぱり機嫌を損ねたようだ。
「どうしますか?」
「“捜査妨害されたわけやないから何もしなくてよかろ。でも彼の動き、気にしておきましょ”」
「分かりました。少ししたらそちらへ向かいます」
「“では後で”」と電話を切った。
私はそのまま聞き込み、ではなくひったくり男が走って行った方に行く。まだそんなに離れていないはず。
予想通りひったくり男は居た。もっと違う道を行けばいいのに。せっかく京都は通りが多いのだから上手く使えば追跡を撒くことができて捕まらないのに。
とりあえず捕まえてこの地区担当の“お巡りさん”に簡単に事情を説明して引き渡す。“お巡りさん”の任務完了。たまたま近くに居たチビッ子が目をキラキラさせながらこちらを見ている。
この子たちは将来、人を助ける警察官にでもなるのだろうか。この国を守る警察官になるのだろうか。それとも人を傷つける人になるのだろうか。この国を傷つける人になるのだろうか。
どうなるか誰にも分からない。この子たちにも分からない。
たまたま持っていた貰い物の飴細工を渡し頭をわしゃわしゃ撫で付け、綾警部が居る方へと歩いてく。