第4章 消えた老舗の和菓子
「ええんですか、被害届は出さへんで」
車で来た車折刑事は先に戻るため、その見送りをする社長に綾警部は問う。
「先代が残してくれたのはあの職人達の『腕』ですから」
被害届は出さないらしい。社長の器の大きさを感じる。その言葉を聞いて綾警部とシマリスちゃんは笑顔に。私も嬉しいと思ったのは事実だ。
「あの、『チョコ味』どうなるんですか?」
『チョコレート味』を楽しみにしていた一人、蘭ちゃんは気後れするように社長に話しかける。
「『抹茶』や『チョコ味』は先代の命日には売りません。職人達が自ら売りたいと言うまでは」
決意を固めるように言う社長の言葉に笑顔が戻る蘭ちゃんと園子ちゃん。でも「『抹茶味』で『京のとり』を好きになった」と言う蘭ちゃんに社長は「おおきに」と返す。
私も『梅はら』のお菓子を今後も楽しみにするとしよう。
その時コナン君は「そういえば光彦は?」と思い出した。
「お~いみんな~!」と走ってくる光彦くん。
蘭ちゃんが毛利小五郎を連れ戻しに行ったとき、容疑者かと思われていたカワスミ マコに会ったらしい。各店舗を回っていたのは『京のとりチョコレート味』がどこにも無かったから。要するに蘭ちゃんと同じく『チョコレート味』を楽しみにしていた一人だった。
かく言う私もその一人ではあるが、綾警部が『小倉味』と『抹茶味』の両方を(買って)くれたので気分は上々だった。
後日、私が無意識にも綾警部を壁にしている様を見た車折刑事は、その光景を「黒澤が綾小路警部にくっついていた」と解釈し周りに話したところ、ものすごい早さで京都府警中に広がった。
その後、綾警部に「あの時の空はん、小動物みたいでしたよ」と言われ、持っていた分厚いファイルを押し付けてその場から逃走する姿が目撃された。