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ひと匙だけじゃ物足りない

第1章 彼にも余裕がない日はある


シャワーを浴び終わった夏目くんはいつもの倍色っぽい。ぼー、と見惚れていると手を取られて早く、と急かされた。

「ご飯は?」
「後でがいイ。だって那乃花ちゃん、さっき耳食べられただけであんな顔をするんだもン。君を先に食べたくなっちゃっタ」
「いつからそんなえっちになったの」
「さァ?少なくとも性欲に関しては君じゃないと湧かないし埋まらないヨ、元々」

私の手を握った彼の指が指の間を埋めてくる。そういえばちょっと前に恋しなかったらボク、性欲なんかなかったかもー、とか言ってた気がする。彼とて人間だから恋愛に興味がなかったとしても性欲くらい…とは思ったものの絶対とも言いきれずに返答に迷った。
けれど大好きな彼の欲を引き出せているというのは素直に嬉しいもので、口元の緩みを抑えることも叶わなかった。
寝室に着くとベッドにゆっくり押さ倒された。
早くと彼が自分から言う時でさえこういう所は丁寧で優しい。
長い前髪が目にかかりそうになって思わず目を閉じるとキスの合図と勘違いした彼の唇が私の唇に落ちて重なる。最初は少女漫画の様な重ねるだけのキスは徐々に深さを増していく。

「んっ、あっ…」

軽く口を開けると即座に夏目くんの舌が入ってきてぐちゃぐちゃに口内を掻き乱す。ついて行こうと試みるもいつになっても私はされっぱなしである。自分の舌の下辺りをつーっと舐められると背筋に電気が走ったように体がびくついてしまった。
ようやく離されて荒くなった息を胸で必死に整えようとする。

「そこ良かったんダ?ならもう一回しよっカ」
「えっ、やそれはちょっっ!!」

言い終わる前に再び口を塞がれて舌を突っ込まれる。さっきより念入りに、しつこくそこを攻めるものだからあまりの快感に足の指が丸まったり、シーツをぐっと掴んだり…まるで本番の時みたいだ。
腰も徐々に反応し始めて、下半身が疼いてきた。気持ちいい、気持ちいいけどこれはちょっとよく分からないけどやだ。
キスでこんなになってしまうなんて信じられないし自分が自分ではないみたいで怖かった。
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