第1章 彼にも余裕がない日はある
おかえり〜、っておふざけ半分で両手を広げてお出迎え、をしてみたらポスっ、と彼の顔が私の肩に埋まる。思わず少しの間目を丸くさせてしまったもののはっと我に返り広げた両手を夏目くんの背中に。
何だかいつもより少し小さくも見えた彼を慰めるように撫でてみた。はぁ〜、と耳元で吐かれるため息に指を固まらせたもののどうかしたの?と恐る恐る聞いてみた。
「別にどうってことはないヨ」
「そっか。…ならちょっと疲れてるのかも!夏目くん最近頑張りすぎだもん。はい、ぎゅー!!」
「何そレ、ボクのこと子供扱いしてるノ?その程度で疲れが吹っ飛ぶとでも言うノ?」
「そう言いながら離そうとはしないんだね」
私に覆い被さる様に抱き着いてきた夏目くんはちょっと大きな子供みたい。いつもは私の方が子供扱いされがちだけど今日は立場逆転かも?
調子に乗ってカワイイ、なんて口走ると、耳元でフーン、と少し低めの声が零される。あ、ちょっと怒らせたかも、と謝ろうとした途端に耳があったかい口内にかぷ、と含まれてしまった。
「ひゃっ…ちょっとなつめくっ、くすぐったい!!」
「くすぐったいでは無いんじゃなイ?」
「ひぅっ!?」
ペロリと彼の赤い舌で耳朶を舐められると肩が大きく上がって口からは嬌声が上がる。
夏目くんは私の耳元から唇を離すと、蜂蜜の様な瞳でじっと、私を溶かすように見つめて、ね?そうでしょ?と問いかけてきた。
口からは息しか出ず、火照った耳を抑える私の頬を手で包む。さっきのため息付いてた彼はどこへやら。随分楽しそうな顔だ。
「ねェ、那乃花ちゃん。抱いていい?」
疲れてるんじゃなかったの?言いたい言葉は確かにそれだったのに何故か口に出せずに、ただこくりと頷いてしまった。