第7章 ボナペティート・アモーレ・ミオ
わたし達が荷物係に上着と荷物を預けると2人掛けのテーブルに案内された。
テーブルには既にカトラリーがセッティングされている。
ウェイターが水を注いでくれた。レモンの爽やかな香りがする。
「ナイフやフォークは外側から使うのがマナーなのだよ。運ばれてくる料理の順番にちゃんと並んでいるから難しく考える必要はない。」
こういう時橘ジンは頼りになる。
まあ、いつも生活におけるほとんどを頼ってばかりなのだが。
「口元が汚れた時はその膝上のナプキンの裏側で拭うと良い。ナイフやフォークを落としても自分で拾ってはいけないよ。」
「え?じゃあどうするの?」
「手を挙げてウェイターを呼ぶのだよ。くれぐれも『すみません』などと声を出さないように気を付けたまえ。」
しばらくすると飲み物が運ばれてきた。
「こちらはアペリティーヴォ、食前酒のベルモットでございます。お連れ様にはサンビッテルをお持ちしました。爽やかな甘さと軽い苦味をご堪能ください。」
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」
わたし達の前にそれぞれ飲み物が置かれた。
「では乾杯しよう。イタリア語では『サルーテ』だ。」
「「サルーテ。」」
グラスは接触させずに乾杯をした。
真っ赤なサンビッテルは今まで飲んだ事のない味がした。
わたしが橘ジンと楽しく話をしていると前菜が運ばれてきた。
「お待たせいたしました。こちらはアンティパストの4種盛り合わせでございます。
アンチョビを使ったカプレーゼ、
キノコのマリネはマッシュルーム、ポルチーニ茸、白マイタケに加えて黒トリュフをふんだんに使っております。
こちらは枝豆、生ハム、クリームチーズのブルスケッタ。
牛肉のカルパッチョにはバルサミコベースのソースをかけてお召し上がりください。」
「分かりやすく丁寧な説明をありがとう。」
普段の橘ジンでもここまで長々と喋る事は珍しい。こんな長文をスラスラと噛まずに言えるだけでも凄いのだが、それを暗記している事は更に脅威的だ。
「では頂くとしよう。1番外側のナイフとフォークを使いたまえ。ブルスケッタは手を使って食べて構わないからね。」