第6章 Episode:06*
「やってしまった……」
「え、と……えっ……?」
「我慢してたんだけど…があんまり可愛いから」
「かわ……え?」
ピタリ、思考が停止する。
空耳……だろうか、今のは。そりゃそうか、野薔薇ちゃんがそんなこと言う訳―…。
「正直言うと私、のことが可愛くて可愛くて仕方ないの」
だから今のキスは謝らない、と。
さっきの様子とは一転。真っすぐ私の目を見てそう言う野薔薇ちゃんに、止まっていた思考がぎしりぎしりと動き出す。
かわ、いい……私、が?
それは一体、どういうこと…?
「要するにことが好きなの。友達として好きでじゃなくて、放っておけないとか優しくしてあげたいとか独り占めしたいとか…あと、私が守ってあげたいとか…そういう好き」
「………」
「まあアンタのとは違うと思うけど」
私の心の声に応えるように、野薔薇ちゃんが言う。
けど、最後の言葉と一緒に彼女が浮かべたのは、自嘲気味の笑み。
違う、違うの。
そう思うのに、あまりの衝撃に頭がついていかなくて、言葉が出てこない。
野薔薇ちゃんが、私を?
嘘だそんなはずないと自分を卑下ばかりするもう一人の私が叫ぶけど、今彼女と真っ正面から対峙してる私自身が、すでに胸を躍らせている。
信じたい。信じさせて。
だって、紛れもない野薔薇ちゃん自身がそう言ってくれてるんだ。
野薔薇ちゃん、野薔薇ちゃん。
この泥だらけの手で、あなたのそのやさしい手を取ってもいいの…?
*