第6章 Episode:06*
それなのに。
「…?また泣いてるの、」
「………っ」
そんな気持ちとは裏腹に、はらはらと溢れ出てくる涙。
もしかして、痛かった?と少しだけ不安の色を含ませて問う野薔薇ちゃんに、違う、と必死に首を振った。
違うの。辛い訳でも哀しい訳でもないのに、溢れて溢れて止まらない。
だから、そういう涙じゃない。
きっと、これは。
「、き……」
「……?」
「野薔薇ちゃん…大好き」
嗚咽混じりにそう告げれば、野薔薇ちゃんがくしゃりと顔を綻ばせたのが気配で分かった。
さっきよりもずっと強い力で抱き込まれて身体が軋むようだったけど、その痛みさえも愛しい。
そう、つまりはきっと…こういうこと。
幸せすぎても人は涙を流すということを教えてくれたあなた。
あなたを想って溢れてくる涙のせいで大好きなあなたを視界に映せないなんて、なんて皮肉だろう。
けど、見えなくても分かる。
野薔薇ちゃんが笑う世界はやっぱりやさしくて、綺麗で、眩しくて。
こんなにも、こんなにも、温かい。
こうしてる今も、まるで光そのものに包まれてるみたいで。
あぁあながち比喩でもないかもしれないなと思いながら、私も野薔薇ちゃんの背中に手を回す。
泣きじゃくりながら、必死に自分の手で掴み取った幸せを、力いっぱい抱き締めた。
*