第6章 Episode:06*
助けを求めるように、引きつる喉で野薔薇ちゃんを呼んだ。
「……野薔薇ちゃん、私……っ」
返事をする代わりに、その場に膝をついて覗き込むように私を見つめてくれる野薔薇ちゃんに、もう堪らなくなった。
止まら、ない。
「私、家族の前でも学校でも泣いたことないの。何をされても、ひどいこと言われても…でも、野薔薇ちゃんと居る時は違う。幸せすぎて、涙が出てくるの。こんな風に……前が見えなくなるくらい、に」
「……」
「どうしよう、野薔薇ちゃん。こんなの……こんなの私、幸せすぎて、嬉しすぎて、もう……死んじゃいそう…」
「…………」
瞬間、塞がれるように唇を何かで覆われた。
温かく、て、柔らかい。
見開いた目いっぱいに広がったのは、いつもサラサラと風になびいている、あの深いオレンジ色。
何が起こっているのかさっぱり分からないながらも、身体はこの状況を打破しようとしなくて。
まるで、時が止まっているようだった。
「………。」
「っ、のば、らちゃ……?」
「あー……」
頭を抱えながら、ゆっくりと私から離れていく野薔薇ちゃん。
突然の出来事に止まった涙のおかげで、そんな野薔薇ちゃんの姿をクリアになった視界に映すことが出来た。
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