第6章 自覚
「そうか。うまくやっていけそうか」
「はい。日番谷隊長も乱菊さんも良くしてくれます」
「なら、よい」
「あ、白哉さん。一つだけお願いがあります」
「なんだ」
「日番谷隊長に、業務後にお送りいただいたのですが…あの」
「一人で帰宅はダメだ」
「え」
料理を運び終えた使用人が全員下がると、白哉は息をついた。
「一応、監視という立場なのだ。我慢してくれ」
美穂子は目をぱちくりさせてから、あぁと思い立って頷いた。
ついつい居心地が良くて忘れていた。
(私は―…白哉さんの監視下に置かれたんだっけ)
別に何をするつもりもないが、白哉の立場を考えれば当たり前なのかもしれない。
実際、六番隊と家の間は白哉と同行であったことを思い出した。
だから今日、送迎を断ろうとしたときに冬獅郎は“相談”だと言ったのだろう。
「すみません、わかりました」
「―…すまない」
「いえ!謝る必要など。私はいわば異端者ですから」
仕方がないことです、と続けると白哉の眉がぐっと寄ったが、美穂子はそれに気づかなかった。
その時、なぜか―…美穂子の心が痛んだのだ。
ここで生活し始めて三か月以上が立ち、すっかり慣れ親しんでしまった世界。
けれど、結局ここは自分のいるべき世界ではないのだと…それを突きつけられたようだった。
(―…白哉さんや恋次、日番谷隊長や乱菊さんがどれほど私によくしてくれても。それは―…きっと、幻なんだ)
美穂子は、そっと自分の食事に口をつける。
だしの味が、口に広がると同時に、ちょっと泣きたくなった。
「美穂子」
「は、はい」
「―…。いや、いい」
「……はい」
白哉は口に出そうとした言葉をぐっと飲み込んで、食事の手を速めた。
美穂子はそれをじっと見つめてから、美穂子も食事を続ける。
いつものような、他愛のない話などされぬままに、時間と共に食事を終えた。
その日の食事は、美味しいはずなのに…不思議と美味しいと感じなかった。