第5章 十番隊との出会い
「藍野、そろそろ休憩しろ」
「え?」
美穂子は書類を片手に、後ろを振り返る。
書庫の入口のドアに寄り掛かっている冬獅郎がいた。
「もう昼休みだぞ。昼を抜くつもりか?」
「あ、あぁ…すみません」
集中していたら気づきませんでした、と苦笑しながら美穂子は立ち上がると書類を置いた。
冬獅郎はそれを見て、小さなため息をついた。
部屋に入った冬獅郎が見た美穂子は、黙々と作業していた。
軽やかに、丁寧に仕事する様子は冬獅郎から見ても見事だった。
おそらく、周囲の称賛の声は本物なのだろう。
(しかし―…周囲が見えなくなるようだな、注意しねぇと)
集中するあまり、周囲の状況に即座に反応できないところがあるのかもしれない。
それに、集中しすぎて体調を崩す可能性も考えられる。
冬獅郎は申し訳なさそうに歩いてくる美穂子に、包を渡した。
「あの?」
「この時間じゃ、食堂に食べ物なんて残ってねぇだろ」
「そう、なんですか。でも、これ…いいんですか?」
白い和紙に包まれたそれは、仕出し弁当だろうか。
美穂子は弁当と冬獅郎を交互に見て、首を傾げた。
「あぁ、それは女用の仕出し弁当でな。感想聞かせてくれ」
「感想…?」
冬獅郎はすたすたと執務室のソファへと歩いていく。
美穂子はそれを慌てて追うと、冬獅郎の前の席に腰かけた。
「さっきも言った通り、うちの食堂は規模的に隊士全員を賄ってやれてねぇんだ。で、仕出し弁当を販売することで不足分を補おうって思っててな。女用ってのもあるつーから、それもらったんだ」
「なるほど」
美穂子は納得がいって頷いた。
つまりは、試作品なのだろう。
確かに一般的なお弁当と言うのは女性にとって量が多かったり、肉や揚げ物ばかりな印象だったりする。
男性ならボリュームがあっていいのかもしれないが、女性から見れば毎日は嫌だと思うかもしれない。
冬獅郎は美穂子に、女性用のお弁当を食べて感想が欲しいと言っているのだろう。
「私でいいんですか?乱菊さんとか…」
「あいつは昼間っから酒だからな。話にならん。一応、休憩時間だから仕事ってわけじゃねぇんだが…いいか?」
「はい!私でよければ。あ、お茶入れますのでちょっと待っててください」