第1章 曇りのち雨
【五条side】
ヘッドホンを付けている理由は五条にとって謎でしかなかった。
会話する気がねーんだ。とかそんなんしか思わなかった。
そして妙にに腹が立った。
周りなんて興味ない…と言ったようなその女の態度に。
かく言う俺自身も周りには興味なんてない。
物心ついた時から周りの人間が振る舞う自分への態度が不快だった。
常に好奇の目で見られ続ける気分は実に最悪だ。
何をしても許される代わりに何をしていてもつまらなかった。
ひとたび外を出歩けば命を狙われる。
そんな生活にうんざり嫌気がさしていた。
そんな俺がたかが女のチビ1人に感情を揺さぶられる。
無駄にイライラするのも、馬鹿にしたりして大口開けて笑うのも、呪霊の気配と共に大きな音と揺れがしただけで心配に駆られるのも。
「胸糞わりぃんだよ」
奥歯を噛み締めながら駆け付けると舞う煙の中にポツンと見える小さなアイツの影。
呪霊の気配がしないという事は祓ったって事だよな?
素直に心配しました。なんて言えるわけも無く俺から出るのはいつも通りの神経逆撫でするような嫌味混じりの言葉
なのに…あいつ。
なんつー顔してんだよ。
いつも無愛想で俺がちょっかい出せばすぐ噛み付いてくる奴があんな弱った表情すると調子が狂う。
ふと気付いた。
二手に分かれる前までは確かにつけていたヘッドホンがない。
「なに、壊れたの?」
濱音の表情が気になりその場にしゃがみ込むと言葉を思わず失った。
さっきまでは、この世の終わり。みたいな顔してた癖に今は何というか…
強気なアイツの泣いた顔。弱った姿。
何だコレ、小動物みたいな奴だな。
出会って数日とは言え目の前で泣かれるとどうしていいか分からない。
それが濱音だからなのかは分からないけれど、今は黙って一緒にいてやる事にする。
「……って…てくよ…」
隣から聞こえたメッチャ小さい声
「あ?なんか言ったかよ?」
なんて声を掛けると先刻までメソメソと泣いていた奴は何処へやら
吹っ切れたような表情のアイツは立ち上がって俺を見る
「ありがとう、五条。もう大丈夫。」
ありがとう…。
ありがとう?俺に言ってんの?
アイツは前よりも表情が明るく見えて俺はザワつく自分の心が気持ち悪く感じた。