第1章 曇りのち雨
まさか高専に来て1週間もしないで壊れるなんて思ってもいなかった。
「ハァ…」
不意に漏れるため息
その場で膝を抱えて座り込み項垂れる。
負の感情は呪霊の大好物。
今の自分は奴等にとって最高のエサになるわけで真上に迫りつつある低級呪霊に気付かずにいた。
ひぃ゛ぃぃぃぃぃ
ふぅ゛ぅぅぅぅぅぅぅ
みぃ゛ぃぃぃぃぃぃぃぃ
よぉ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
お゛い゛し゛く゛た゛へ゛れ゛る゛ね゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇぇ
辺りにこだまする悍ましい呪霊の声
ハッと我にかえり真上から落下してくる呪霊を避け術を使う
風の音と共に血肉が弾ける音が辺りに響いた直後…
「おーい、おチビ生きてんの〜?」
今どうしても会いたくなかった相手の声
と同時に焦る。
ヤバい、ヘッドホンないんだ…
思わず意味もないのに耳を塞ぐ。
(スンゲェ音したけど…ちゃんと生きてて良かったわ)
は?
これで本日2度目だ。
五条の思考に振り回されるのは。
(生きてて良かった)って心配してたって事?普段あんな憎たらしく突っかかってくるアイツが?
心配なんて、誰かにしてもらうのはいつぶりだよ…
すぐに反論してこない私を訝しげに見下ろしている五条はその耳にヘッドホンが付いてないことに気付いた。
「なに、壊れたの?」
しゃがみこんで目線を合わせてくるアイツはいつもの意地悪そうな雰囲気じゃなくて思わず涙が頬を伝う
「ふっ……う゛っっ………全部、壊れた゛っ」
涙が出たら止まらない完全に八つ当たり
でも壊れたのは五条のせい
五条の印象が壊れた。
口では意地悪な事ばかりな癖に心では心配してくれてたり優しさがある…
本当に憎たらしい奴だけどコレは私の聴こえてしまう能力が無ければ知り得なかった事だから
泣き出した私にどう接していいのか分からない様子の五条は黙って隣にしゃがみこんでいた。
ひとしきり泣いてスッキリした気持ちにはなったが心には嘘をつきたくなかった。
「ヘッドホンなくても頑張って声と向き合って生きてくよ」
自分にも聞き取れるか分からないほどの小さな声で決意を固めた。
「ありがとう、五条。もう大丈夫。」
そう言って立ち上がり歩いていく。