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止まない雨はない

第1章 曇りのち雨


無言で廃屋の階段を登っていくと登りきってすぐ目の前の辺りに気配を感じる。




いる。


3級…か?雑魚だな。



念のため姿が視認できる前に術を発動させる。



「骸風一閃」



印を結んで短く息を吹き込むと術が発現する。


視認こそしなかったが形容し難い音がヘッドホン越しに聞こえてくる。


肉塊が千切れ体液が辺りに散ったであろう音は術が呪霊に当たったことを意味する。




私の家系の術式は自身の吹きかける息を印を結んだ手を通し強化させ強大な風のように変化させる。

風というものは便利で場合によっては相手を動かせないほどの突風を起こせたりなんかする。

その風に呪力が乗っているわけだから当然、呪霊に当たれば即終了。

当たらなくても掠りさえすればそれなりのダメージが与えることが出来る。



術式だけで本来なら充分だった。
どうして私には聞きたくもない他人の声が常に聴こえてしまうのか…


こんな力なんて要らない、



要らない…




いらない。




欲しくなかったのに…





高専に来てから連日、慣れない環境での生活に少々疲れていた濱音は昔を思い出し思わず吐き気と眩暈を催した。





あぁ、本当最悪。






背後は階段

何てタイミングで体調悪くなるかなぁ。なんて呑気な思考が頭を巡るのと比例するように閉じていく視界と失われる平衡感覚。





受け身なんて取れるはずもなく豪快に転がり落ちていく。




見事なまでに1番下まで落っこちた。


痛い

いや、そうじゃなくて

嫌な音がした。


バキッ。と



恐る恐るあるはずの物を探すように手を伸ばした。







自然と震え出す指先…







圧迫感がない






雑音が脳内に直接響いてくる





あぁ、本当に私はツイてない。










「ヘッドホン…壊れた…。」





掠れるように小さな声が廃墟の暗闇に飲まれて消えていった。

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