第1章 曇りのち雨
実地試験場所に指定された廃墟に着くまでの間は気持ち悪いくらい静かだった五条が廃墟に入るなり話しかけてきた。
「あのさ、初めて教室で会った時から思ってたんだけど何でソレ外さねーの?」
ソレと言いながら耳を指している。
つまりヘッドホンの事だろう。
「何で?」
「何か聞いてんのかよ歌とか?」
「んなの聞いてる訳ないじゃない。」
「じゃあ外せよ、見てて腹立つ」
「はぁ?何であんたの指図で外さなきゃいけないワケ?却下、無理ね。」
シッシっと手を払うように見せると五条は眉間の皺をいつもよりも濃くしてジッと見てくる。
「俺との会話が聞こえてんのか分からねーんだよ、ソレ付けてると。」
意外な五条の発言により私の思考は少しの間停止した。
決して残念な頭だからではない、あの五条が妙な事を言い出すから悪いんだ。
「プッ……何だよチビその顔は、いつも以上にマヌケ面だな?」
前言撤回、いつも通りだ。
本心を聴いてやろうかと思ったがアホらしい。
さっさと呪霊祓ってこんな陰気な所出よ…
「やめやめ、こんなんじゃ硝子達に先越されちゃう。私は上行くから五条は地下よろしくね」
「何で俺が地下なんだよ、それにシレッと仕切るなよチビ。」
「はいはい、地下をお願い致します五条サン?」
棒読みで頼んで踵を返す。
なんだかんだブツブツと文句言いながらも五条は地下に行ってくれるようだ。
私は…
地下にはいけないから…
過去のトラウマというものは簡単には消えてくれない
忌々しい記憶ほど鮮明に……。