第1章 内気な子
「うおぉ!すっげぇ!!」
一番背の高いよつば君は目をキラキラさせて、机の上に置かれた差し入れを見ている。
そういえば高校生なんだっけ。
「ダメだよ、環君。柏葉さんの迷惑になるんだから」
お兄さん立場の逢坂さんは必死に四葉さんをたしなめようとしているけれども、四葉さんは不満そう。
「あの、私は全然気にしないので良ければどうぞ」
そういうと、目の前の差し入れに手を付けだした。
逢坂さんもよければと進めたらおずおずと手を伸ばしていく。
他の人も少し気が緩んだ表情をしてそれぞれ手を伸ばし始めた。
最初はどうしたらいいのか分からない状況だったけれども、湊川さんの仲良くしてほしい発言のおかげかあの後順調に話せるようになってきている。
特にお兄さんの和泉さんがお話上手で、程よく私にも話題を振ってくれる。
私の楽屋が今までにあったのかというほど穏やかな空気が流れていた。
「それにしても、意外でしたね。テレビでも良く出ている柏葉さんがまさか人と話すことが苦手だったなんて」
そう話しかけてきたのは弟の和泉さん。四葉さんと同い年らしいのだけれども、とても落ち着いていて大人な雰囲気を漂わせている。
「そうなんです。わ、私ってば仕事のときとそうでない時の切り替え?というんでしょうか。お仕事のときだけはお仕事用の自分になっているんです」
本来はこういう性格で…苦笑いをこぼしながら少しぼそぼそと話すと弟の和泉さんは「なるほど」といって一人で納得してしまったらしい。
な、何がなるほど何だろう。とても気になってしまう。
「こら、一織。お前が自己完結しちゃってるから柏葉さんが困ってるだろ」
「な、別に私はそんなつもりじゃ」
お兄さんの和泉さんはそう言いながら、肩を組んでいた。
そんな反応を聞かないふりをしているのか、はたまたよくあるのかは分からないけれども、ごめんなさいと私に謝ってきてくれた。
「あの、いえお気になさらないでください、和泉さん」
両手を胸の辺りまで上げて手を振る。
「あはは、下の名前で呼んでもらって大丈夫ですよ。和泉さんって言われても俺ら二人いるし」
「そ、そんな。恐れ多いと言いますか、何というか」